1 原文の冒頭
井のもとにいでて遊びけるを、
おとなになりにければ、
男も女も恥ぢかはしてありけれど、
男はこの女をこそ得めと思ふ。女はこの男をと思ひつつ、
親のあはすれども、
聞かでなむありける。さて、この隣の男のもとより、かくなむ。
また、結婚後のお話。
3 超現代語訳
昔、地方回りをして働いていた人の子供がいました。
子供は男の子と女の子。
とっても仲良しで、井戸の周りで遊んでいました。
井戸の周りは木の柵でできていて、
その柵と、自分たちの背の高さを比べたりしながら遊んでいたんです。
かわいいですね。
さて、ふたりも大人になるとお互いに恥ずかしくなります。
今の若い人たちと同じですね。
ふたりは、幼い頃のようにじゃれあうこともなくなって、
なんとなく疎遠になってしまっていました。
でも、お互いの思いはずっと続いています。
大人になった男の子は、ぜひこの幼馴染の女の子を妻にしたいと思うようになりました。
いっぽう女の子も同じ。
幼馴染の男の子と結婚したいと思っていて、親が他の人と結婚させようと思うけれども、女の子は親のいうことをききませんでした。
そうしているうち、ある日この隣の家の男の子は意を決して女の子に歌を送ります。
こんな歌です。
楽しかったなぁ。
もう自分の背の高さは、筒井戸の囲いの高さをすっかり越してしまったよ。
あなに会わない間に、
自分もすっかり大人になったんだよ。
自分はもう大人だよ、とアピールするって、これはラブレレターですね。
つまり結婚したいということの意思表示にほかなりません!
「筒井筒」とは、筒井の上に設けた囲いのこと。
「井筒」とは、井戸の地上部の囲いのこと。
「あなた」という意味で、
男性から妻や恋人、姉妹などに信愛をこめて呼ぶときに使われます。
この言葉にも、相手のことを「大好き」という思いがこめられているのがわかりますね!
そして女の子もお返事を送ります。
あのころは、ふたりともおかっぱ頭だったわね。
でも、今は私の髪はとっても長くなったのよ。
もちろん肩を過ぎているの。
あなたのため以外、他の誰かのために結い上げるなんて考えられないわ。
あなたのために結い上げたいの。
ふたりは、互いの思いを実らせて結婚することができました。
赤い糸で結ばれていたんですね。
頭のてっぺんから髪を左右にわけて垂らして、
肩のあたりで切りそろえる髪型で、子供の髪型です。
男の子も女の子も、8歳くらいまでは、こんなおかっぱ頭をしていたんですよ。
成人の記しとして行います。
成人して結婚できることを表します。
結婚が決まると成人の儀式をする、
というのが一般的だったのです。
女の子からも、結婚について積極的な歌というのがわかりますね。
無事に結婚して幸せな生活が始まったはずですが、
長い人生のうち、夫婦にはいろいろなできごとが起こります。
このふたりにも、仲睦まじい夫婦生活に影を落とすできごとが・・・。
いったい、何が起こるのでしょうか。
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